自社の倒産が視野に入るほど資金繰りが苦しい時、多くの経営者が頭を悩ますのが「従業員の給料が払えない」という大きな問題です。
月末に入ってくるお金はあっという間に取引先、銀行への支払いで消え、残ったお金で給料を支払うのですが、全額支払うにはまったく足りない…。
私も自社を倒産させる直前には、何度もこの問題で脳血管が切れそうなくらい悩みました。

この記事をご覧になられている方は、倒産による給料の未払いがもし発生してしまった時に、経営者であるご自身に何が起きるのか、現実を知りたいのではないでしょうか。

ハローワークから何を言われどの様な処分をされるのか、従業員がもし訴訟を起こしたら会社と社長であるご自身はどうなるのか、家族への影響はあるのか。
心配な事、気になる事は山ほどあると思います。

結論から言いますと、自社の倒産に伴う給料未払いの発生については、対処方法を間違えなければ、従業員側がもし裁判を起こしたとしても会社、社長に対して大きな影響はないと断言します。
なぜ断言できるのかというと、私は700社以上の経営不振の会社の相談を受け、多くの倒産現場に関わり、倒産の現場で実際に何が起きるのかを私の目で見ているからです。

「法律ではこうで罰則はこうです」と解説している弁護士事務所のサイトは多々ありますが、実際に現場で起きる事は、弁護士の解説とは大きく違います。
この記事では法律上の解釈、罰則を解説するだけではなく、もし倒産に伴う給料未払いが発生した場合、どの様に対応すれば会社、社長に与える影響をなくせるのか、私が実際に現場に出て作り上げた実践的手法を解説します。

ハローワークへ従業員に駆け込まれても会社への影響はまずない

ハローワークに倒産による給料未払いが発生したことを、従業員が相談した場合の流れを説明します。

  1. ハローワークから電話がくる

  2. ハローワークに呼び出される or 会社に来られる

  3. 給料未払い分を従業員に払うよう指導される

  4. それでも支払えなければ何度も指導される

ポイント

担当者の方に対して丁寧に対応しましょう。

担当者からの心象が悪くなって得することはありません。
「なんとか支払いたいのですが、どうしてもお金が準備できない。
お金が準備できしだい支払いますので、なんとか待っていただけませんか?」
と低姿勢で謝りまくりましょう。

倒産が視野に入るほど悪化した経営状態による給料未払い発生という事情があるにせよ、従業員に支払うよう、強くハローワーク側から指導はされます。
しかしハローワークが社長や会社に対して、法的手段に出ることはまずありません。

ハローワーク側から強く給料未払い分を払う様指導をされたとしても、あなたの会社や社長個人に何か影響がある可能性は、極めて低いでしょう。

給料未払い分回収のために口座の差し押さえはされるのか?

倒産による給料未払い分を、社長であるあなたに対して、ハローワークが従業員に支払うよう強制するため、法的な手段に出ることはまずありません。
ハローワーク名義で会社の口座を差し押さえし、給料未払い分をハローワークが代理徴収し従業員に払う、そのような事はまずやりません。

私は700社を超える経営不振会社の社長から相談を受けていますが、ハローワークが倒産による給料未払い分を回収するために、会社の口座を差し押さえたという話は1度も聞いたことがありません。

ハローワークが裁判を起こしてでもお金を回収する場面というのは、従業員側による失業保険、補助金の不正受給などの場合がほとんどです。
こういった場合はハローワーク側が従業員にお金を支払っているので、法的措置を取ってでも回収するのでしょう。
しかし倒産による給料未払い分を社長に支払うよう指導する場合は、ハローワークが誰かにお金を払うことはありません。

仮にハローワークが裁判を起こしてでも、給料未払い分を会社から回収しようとするとしましょう。
口座の差し押さえをするには、裁判を起こし差し押さえが可能となる判決を裁判所からもらう必要があります。
その場合ハローワーク側に

  • 裁判を起こすための弁護士費用、訴訟費用などの金銭的負担
  • 訴訟を起こす手間と時間の負担

が発生します。
そこまでして、倒産による給料未払い分をハローワークが従業員に代わって回収することは、割にあわないという判断をしているでしょう。

実際にハローワークに駆け込まれた事例と対応方法

秋田県 食品製造会社の事例

事業縮小によるリストラで5人解雇。
そのうち3名が結託してハローワークに相談。
ハローワークより社長が呼び出しを受け、弊社と連携しながら対応。

解決方法
ハローワーク担当者に給料未払いが発生したいきさつと、原因を丁寧に何度も説明し、会社側の状況を理解してもらえるよう努めた。
「倒産が視野に入るほどの経営状態であるが、お金が準備できれば必ず払う、しかしいまの時点でいつかは約束できない」
の一点張りで3度の面談を行う。
けっきょく給料未払い分を食品製造会社が支払えなかったが、訴訟を起こされることもなくそのまま終わった。

労働組合(ユニオン)に駆け込まれた時の対応法

労働組合に倒産による給料未払い分を会社や社長に支払いを強制する力はないので、給料未払い分を払えない状態ならば「払えない」とはっきりと伝えましょう。

会社にユニオン側のデモ隊が来て、「不当解雇!」などの“のぼり”を会社の前に立てられ、「給料払え!」と大きな声をあげられる可能性はありますが、落ち着いて対応しましょう。
警察を呼んでも基本的に民事不介入ですので、現場に来てくれても警察官は帰ってしまいます。

何回かユニオンのデモ隊は会社に来ると思いますが、腹をくくって
「払いたくても払えない。支払える状態になったらすぐに払う。しかし日にちの約束はできない」
と、辛抱強く社長自身が交渉しましょう。

おそらく数回の交渉で終わるはずです。

弁護士にユニオンの対応を依頼する場合

基本的に弁護士はユニオンに対しては何もできることはありません。
ユニオンの行動を規制できる(会社に来ないよう要求するなど)法律はありません。
その様な法律がないということは、例え弁護士に依頼したとしても弁護士がユニオンに
「〇月〇日に支払う予定ですので、それまで待ってもらいたい。会社には来ないでほしい」
と交渉するくらいしか手段はありません。

弁護士だからといって、ユニオンがあなたの会社に来ることを止める力はありません。
交渉するしかユニオンとの和解方法がないのでしたら、弁護士費用を無駄に払うよりはあなた自身が交渉した方がよいと私は思います。

給料未払いが発生した場合の経営者としての法的責任、罰則について

倒産が原因でも給料未払いは法的責任に問われる

給料未払いを発生させると、労働基準法第二十四条に違反することになります。

労働基準法第二十四条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

e-Gov 法令検索より

倒産が理由で給料の未払いが発生した場合でも、理由に関係なく労働基準法違反になります。

罰則は罰金30万円

労働基準法第24条の違反行為が発覚した場合、労働基準監督署による監査や指導が実施されます。
最悪の場合は経営者が罪に問われ、30万円以下の罰金刑に処されることもありますが、実際にそこまでいった経営者に、私は会ったことはありません。

給料未払い裁判ではまず経営者側が負け、支払えないなら差し押さえ

民事事件として裁判で争うことになります。

給料未払いで訴えられた場合は、従業員に大きな瑕疵がないかぎり、経営者側がまず負けると思っていた方がよいでしょう。
裁判に負け会社が元従業員に未払い分を支払う様判決が出たら、社長はおとなしく支払うか、もし支払う金がなければ会社名義の資産(口座の現金など)を差し押さえされる可能性があります。

差し押さえた口座に金がない場合

弁護士により会社名義の口座を差し押さえられたとしても、その口座にもしお金がなければ、お金は回収できずに終わります。
基本的にお金がない人からは、弁護士といえどもお金の回収はできないのです。
お金がない人からは、何人たりとも貸した金を回収はできないということが、借金(差し押さえも一種の貸金回収とみなします)の大原則です。

詳しくは当サイト内 ” 会社を倒産させても自己破産はするな/倒産経験者が語る自己破産しなくてもすむ方法「お金がない人からは貸した金は回収できない」を頭に叩き込もう ” を参照してください。

A銀行にある会社名義の口座にお金がなければ、弁護士が他の銀行の口座を探し、口座がある銀行にもう一度差し押さえをかける事は可能です。

裁判から差し押さえまでの流れ
裁判から差し押さえまでの流れ

差し押さえは請求金額によってはあきらめる事も多い

倒産による給料未払い分の差し押さえを従業員が行う場合、弁護士に払う費用が当然発生します。
弁護士がどこの銀行に口座があるのか調査し、差し押さえ手続きをするのですが、1口座につき弁護士費用として5~10万円程度の費用がかかります。
例えば

  • 給料未払い額が20万円
  • 裁判の弁護士費用が10万円
  • 1口座の差し押さえ費用が5万円

としましょう。

  • 弁護士費用として掛かる金額10万円+差し押さえ5万円=合計15万円
  • 給料未払い額20万円-弁護士費用15万円=従業員の手元に残る金額5万円

となりますが、あなたが従業員側の立場としたら5万円のために弁護士と契約して裁判までやりますか?

裁判は精神的な大きな負担となります。
たった5万円のために、倒産で突然無職になったストレスに加え、裁判という大きなストレスを抱えてまでも裁判、差し押さえまでやるという人は少ないでしょう。
少なくとも私は20万円程度の未払い給料で、裁判までいった事例を見たことがありません。

社長個人の資産の差し押さえは不可能

結論から言いますと、差し押さえは会社名義の資産しかできないため、社長個人名義の口座の差し押さえはできません。
なぜならば裁判になったとしても、訴えられる対象は会社であり、支払い義務があるのも会社です。

会社と社長個人は別の人格なので、会社名義の借金を社長個人の借金として扱うことは、法律的に認められません。

あなたの友達が賠償責任を負ったからと言って、あなたのお金を友人の代わりに差し出す必要はありませんよね?
それと同じです。
ゆえに倒産による給料未払い分を会社名義の資産から差し押さえができない場合、その代わりとして社長個人名義の資産の差し押さえをすることは、法律上不可能なのです。

倒産による未払い給料を国が立て替え払いしてくれる制度について

従業員が倒産した会社を相手に、給料未払い分を回収するのはかなりハードルが高いため、国が救済制度をしっかりと用意しています。

ハローワークを窓口とする国による「未払賃金立替払制度」(厚生労働省公式サイトより) という仕組みがあり、給料未払いがあると公的に認められれば、未払い分の最大80%を受け取れます。

無理して給料を払うくらいなら未払賃金立替払制度を使った方がいいと考える理由

無理をしてでも従業員の給料を支払い、社長の生活費すらなくなるくらいならば、この制度を使うことを私は社長にはおすすめします。
倒産による失業の場合、従業員には失業保険がすぐに出ますが、経営者にはそういった国による保証は一切ありません。
資金繰りが苦しくなり、受け取れなかった役員報酬を経営者に国が補填してくれる仕組みなどありません。

今まで私が出会ってきた社長の中には、子供名義の生命保険を解約して従業員の最後の給料を支払った社長もいましたが、従業員からは感謝どころか悪口を言われる始末です。
そこまでして支払ったのに、社長は従業員から
「退職金を出せ!
解雇予告手当として給料の3か月分は払え!
私には家族がいるのにどうやって明日から生活すればいいんだ!
責任を取れ!」
と言われることがほとんどでした。

「社長も大変な状況なのに、払ってくれてありがとうございます」
と感謝された社長を、私はほとんど知りません。

この様な状況になった社長は
「無理して払うんじゃなかった。あの金があればもう少し家族に資産を残せたのに」
と皆さん後悔していました。

無理をして最後の給料を支払うことで、会社倒産後の社長、社長の家族の生活費にも困る状況になるくらいでしたら、国の制度を使った方が私は良いと判断します。

給料未払い分をハロワからスムーズに受け取れなかった事例

会社側が従業員に離職票をきちんと渡せばスムーズにハローワークへ申請できますが、離職票が従業員の手元にない場合は、受給の認定に時間がかかります。

私が実際に見た実例として、申請から受給まで6カ月かかった元従業員の方がいます。
受給にそこまでの時間がかかった理由ですが

  • 元経営者が会社の倒産処理をせず逃亡
  • ある日を境に元経営者とまったく連絡がつかない状態になり、離職票の発行を元経営者に請求できない状態
  • 離職票が元従業員の手元にない

ため、事実上の倒産状態とハローワークが認めるまで6カ月かかったためでした。

経営者がきちんと会社の倒産処理をしていれば、倒産処理が完了していなくても「事実上の倒産状態」と認められます。

こういった場合は事情を担当者に話し、必要書類をハローワークに提出すれば、未払い賃金立て替え制度をスムーズに使えます。

元経営者が倒産処理をすれば未払い賃金立て替え制度を使うハードルはかなり低く、申請書類の受理からまもなくして、お金が元従業員の口座に振り込まれます。

しかし受給に6か月も時間がかかったこの事例の場合は、元経営者が倒産処理をしないため、事実上の倒産状態とハローワークに認定されるまで様々な書類を提出し、何度も交渉をする必要がありました。

倒産による給料の未払いが発生している従業員に対し、この制度を使い未払い給料の一部精算を考えている経営者の方は、会社の倒産処理をしないとスムーズにこの制度を使えない事を覚えておいてください。

未払賃金立替払制度を使っても社長の負債にはならない

この制度を使うことにより、ハローワークから従業員に払われた給料未払い分の立替金額を、会社もしくは社長個人がハローワークに返済する必要はありません。

未払賃金立替払制度を使える条件

会社が労働保険に加入していることが、未払賃金立替払制度を使うための条件となります。

労働保険の滞納があっても未払賃金立替払制度は使える

もし会社が労働保険の未払いを起こし、労働保険料を滞納していたとしても、この制度は使えます。
先程解説した “ 給料未払い分をハロワからスムーズに受け取れなかった事例 ” で登場した会社ですが、この会社は労働保険の滞納を起こしていました。
しかし元従業員の方は無事未払賃金立替払制度を使えています。
未払い分の労働保険料は会社の負債となりますが、この制度を使うことに対する影響はありません。

倒産による給料未払いを起こした時の従業員への対応方法

従業員にはひたすら頭を下げて、給料の未払いを起こしたことを謝りましょう。
どう説明しても従業員を納得させることは無理でしょう。

逆の立場だとして、あなたなら働いたのに給料が受け取れなければ、社長にどのような事情があっても納得はできないでしょう?
立場が変われば思いも変わるものなのです。

私が実際に現場で使っている従業員への対応方法

従業員の方の怒りを少しでもおさめていただくために、私が実際に現場でどのように対応しているかを解説します。

  1. 最後の給料が払えない事情を説明

    社長も自腹を切って支払おうとしたが、もうすべての資産が尽きていることを伝える

  2. 未払賃金立替払制度の利用をすすめる

    この制度を使えば給料未払い分の80%がハローワークを通じて支払ってもらえることを伝え、一部でも未払い分を回収できる見込みがあることを認識してもらう

  3. 必要書類を伝え必ず書類を渡すことを約束する

    未払賃金立替払制度を使うにあたって必要な書類(離職票など)を教え、いつ頃書類を渡せるかを約束する

社長としてやれることを最大限やり、それでも金が足りないが補う仕組みがあり、その仕組みを使うための支援を惜しまないことを誠意をもって伝えることがポイントです。

ここまで説明し、誠実に対応して従業員と激しくもめたり、裁判までいったケースは0です。

まとめ

  • ハローワークへ従業員に駆け込まれても会社への影響はまずない
  • ハローワーク担当者への対応は丁寧に行う
  • 給料未払い分回収のためにハローワークが口座の差し押さえをすることはまずない
  • 倒産が原因でも給料未払いは法的責任に問われる
  • 罰則は罰金30万円
  • 未払い給料で裁判になるとではまず経営者側が負け、支払えないなら差し押さえ
  • 差し押さえた口座に金がない場合は差し押さえは空振りに終わる
  • 倒産による未払い給料を国が立て替え払いしてくれる制度がある
  • 無理をして給料を払うくらいなら未払賃金立替払制度を使った方がいい
  • 未払賃金立替払制度を使っても社長の負債にはならない

以上になります。

営業は一切なし。
貴社のお話、お悩みをお聞かせください。

現在の会社の状況にお悩みではありませんか?

「社会保険料が払えきれない。」
「どうすれば税金を払えるのか。」
「このままだと自宅が担保が差し押さえられる。」
「大きな決断が必要なタイミングなのか。」

私たちがこれまで培ってきた500社超の支援実績から得た経験や独自のノウハウを基に、今のあなたにとって、望む結果を出すための最適な提案をさせて頂きます。

わたしたちから営業を行うことは一切ありません。
まずはあなたのお話、お悩みをお聞かせください。