この記事の結論(AI QUICK SUMMARY)

社保倒産を防ぐ換価の猶予には、社長に個人保証がつく実務上の重大なリスクがあります。
滞納の非を認め、年金事務所を敵とせず誠実に向き合うことが肝要。
支払い順位を役員報酬最優先へ切り替え、数字の根拠を持って同行交渉に臨むことが、事業継続と家族を守るための唯一の生還戦略です。

社会保険料の支払いがきつい…
取引先への支払い、給料、銀行への返済を終わらせたら、ほとんど手元に金が残らない状態になってきた。
取引先、給料だけはどうしても支払わないとまずいから、今月だけ社会保険料の支払いを止めて、来月に2月分払おう。

これが地獄の始まりです。
社会保険料を支払えない月が続き、あっという間に数百万円、数千万円という多額の滞納が発生します。

こうなってから一括で全額支払うなどという事がまず無理なのは、皆さんお分かりでしょう。

しかしこれが社会保険滞納の現実です。

社保倒産という言葉が作られるほど、社会保険料の支払い負担が会社に重くのしかかり、倒産の引き金にもなっています。

私は700社超の会社再生に関わる中で、社会保険料が支払えず倒産まで追い込まれた会社を100社以上見ています。
支払えない社会保険料について年金事務所と交渉するには、「換価の猶予」という制度を使い、支払いについて交渉を行います。

この記事では現場で社保倒産と戦い続けてきた私の目線で換価の猶予について詳しく説明し、換価の猶予と年金事務所の現実を皆さんにお伝えします。

この記事では

  • 換価の猶予を使った会社に実際何が起きるのか
  • 社会保険料を滞納している社長に対する年金事務所担当者の本音
  • 換価の猶予にまつわる担保、時効、個人保証について

について、詳しく解説していきます。

滞納している社会保険料の時効と個人保証について詳しく知りたい方は、当サイト内 “ 滞納した社会保険料の時効と時効の成立について|弁護士監修 “ を参照してください。

換価の猶予とは

社会保険料、年金保険料の支払いができない法人が、年金事務所にその旨申し出を行い、換価の猶予の適用がOKになれば、最長1年間は社会保険料滞納を理由とした差し押さえや、資産の売却を年金事務所はしませんというものです。

詳しく知りたい方は、厚生年金保険料等の猶予(換価の猶予・納付の猶予)厚生労働省公式サイトより を参照してください。

しかし実務の現場で起きている現実は、法律とはまったく別物です。

換価の猶予は支払いを待ってもらう手続きではない

カン違いされている社長が多いのですが、換価の猶予は払えない社会保険料を待ってもらう制度ではありません。

換価の猶予とは、適用期間中は社会保険料滞納を理由とした差し押さえなどをしないという約束でしかありません。
換価の猶予を1年で取った場合は、約束通りの社会保険料で支払いができていれば、その期間は資産の差し押さえをされないというだけです。

換価の猶予を適用する場合の流れ

  1. 換価の猶予申請書を年金事務所に提出

    提出書類
    ・財産収支状況書
    ・担保の提供に関する書類 など

  2. 滞納分の支払い計画を決定
  3. 納付誓約書などの書類を提出

    ・納付誓約書

    ・分割納付計画書

    などの書類を提出することにより、滞納している社会保険料の支払いに個人保証をつけたとみなされる

  4. 新規発生分の支払い+滞納分の支払い開始

滞納分は新規発生分とセット払い

滞納した社会保険料は、新規で発生する社会保険料と合算して支払います。

滞納分と新規発生分の支払い
滞納分と新規発生分の支払い

担保の提供について

換価の猶予の概要について説明している、厚生労働省の公式サイトで厚生年金保険料等の猶予(換価の猶予・納付の猶予)に「担保の提供」という項目があります。

内容は

担保の提供

猶予の申請をする場合は、原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保の提供が必要です。
ただし、猶予を受ける金額が 100 万円以下である場合や猶予期間が3カ月以内である場合、担保として提供することができる財産がない場合などは、担保を提供する必要はありません。

*担保として提供することができる財産とは・・・
①土地、建物 ②国債、有価証券 ③保証人の保証 などです。

厚生労働省の公式サイト 厚生年金保険料等の猶予(換価の猶予・納付の猶予)より

というものです。

担保の提供がなくても換価の猶予は適用できる

厚生労働省のサイトには書かれていませんが、担保が提供されなくても換価の猶予は使わせてもらえます。

700社以上の会社再生に関わり、何百回と年金事務所と社会保険料の交渉に出向いた私の経験上、担保の提供がないからといって、換価の猶予の適用がNGだったことはありません。

担保はとらなくても個人保証はとられる

  • 納付誓約書
  • 分割納付計画書
納付誓約書原本
納付誓約書原本
分納計画書原本
分納計画書原本

こういった年金事務所から記入、押印を求められた書類を先方に提出することにより、担保の提供はなくても社長の個人保証を付けたとみなされることに、注意が必要です。

個人保証がつく理由と根拠

上記の書類などの提出により個人保証がつくという文言は、年金事務所が出す書類のどこにも載っていません。

「書類に書かれていないのに、個人保証がつくなんておかしい!なぜ個人保証がつくのか説明してくれ」
と、私に怒りをぶつけられた社長もいらっしゃいます。

説明はできません。
はっきりとその様なことは、どこにも書かれていないのです。
しかしこういった書類を提出した後、滞納した社会保険料を約束通り支払えなくなった社長が、社長個人名義の銀行口座や自宅などの資産を差し押さえられた例を、私は何十例と見ています。

年金事務所の持つ強大な権限を絶対になめてはいけません。

書類提出と個人保証について詳しく知りたい方は、当サイト内 “ 滞納した社会保険料が原因の差し押さえから会社を守る方法を徹底解説|社労士監修 納付誓約書の提出が滞納保険料に個人保証をつけたとみなされる “ を参照してください。

換価の猶予が取り消される場合

換価の猶予が適用期間中にもかかわらず、取り消された会社を私はこれまで何十社と見てきました。

換価の猶予が途中で取り消される理由は1つしかありません。
それは
滞納分の支払い計画を守らなかった
この1点です。

要は、
「滞納分として毎月100万円新規発生分に上乗せして12回にわたって支払います」
という約束をしていたにも関わらず、資金繰りが厳しく支払えなくなり、約束通りの期日、金額で支払えなかったら、換価の猶予が取り消される可能性はとても高いという事です。

年金事務所担当者との約束は絶対

年金事務所担当者と話し合い、分納計画書を作りましたよね。

この計画通りに滞納分を支払わない、もしくは新規発生分を支払えない、そうなると年金事務所の態度は一気に変わります。
約束を守らない事を年金事務所はとても嫌います。

何度交渉にのってくれるかは担当と関係性次第

「では何回くらいなら、年金事務所は計画の引き直しにのってくれるんですか?」
と、社長に聞かれることが多くあります。

しかしこの質問に私は答えることはできません。

なぜならば、再交渉に応じてもらえるか、何度支払い計画の変更を認めて燃えるのかは、担当によって変わるからです。

滞納分の支払いが1回遅れただけで換価の猶予が取り消された会社もありますし、計画の引き直しに何度も応じてもらえた会社もあります。

担当者との関係性も重要です。

「この社長なら誠意があるから力になってあげよう」
と担当者に思ってもらえれば、少々無理な状況でも上役に掛け合ってもらえることもあります。
実際に私は何度もそういった場面を見ています。

担当者が話し合いの結果を後日ひっくり返す場合

年金事務所の担当者との話し合いで決めた納付計画、条件でも、あっさりと覆されるパターンも多くありますので、注意してください。

実例:12回の支払い計画を3回に短縮された人材派遣会社

エリア : 神奈川県

業種 : 人材派遣業

従業員数 : 8名

社会保険料の滞納額 : 2,800万円

経緯 : 換価の猶予を申請し、担当者と滞納分を12回に分けて支払うことで合意。

結果:年金事務所担当者との話し合いの3日後、担当者より電話が社長に入り、担当者から
「12回に分けての支払いの件ですが、3回で支払いを終わらせるよう上司に言われたので、3回でお願いします」
と通告される。

社長は3回での支払いは無理と何度も伝えるが、3回での支払いしか認めないという結論は変わらなかった。
担当者の上司と話をさせてほしいと懇願するが、断られて終了。

担当者といい関係をつくり、担当者が「この社長なら力になりたい」と思ってくれていたとしても、どうにもならない事もあります。
年金事務所の立場としては、約束通り払うべきものを払わない社長が悪い、ただそれだけです。
だからこそ、担当者が力になってくれるための再建計画や、上司を納得させられる数字の根拠が必要なのです。

換価の猶予が期限切れした会社の末路

換価の猶予の期間が終わり、それでも滞納分が支払えない、もしくは新規支払い分も支払えないとなると、年金事務所による差し押さえが開始されます。
そこに慈悲はありません。

実例:「そんな会社はつぶれてください」と言われた社長

エリア:東京都

業種 : 飲食業

従業員数 : 25名

社会保険料の滞納額 : 6,500万円

経緯 : 換価の猶予を申請しOKが出たが、約束通り滞納分が支払えない状況が3回発生。
ついには新規発生分も払えない経営状態におちいり、換価の猶予を取り消される。
年金事務所による銀行口座、売掛金、保証金の差し押さえが開始されたため、社長が年金事務所に交渉に行き
「このままでは会社がつぶれる。従業員25名が路頭に迷ってもいいのか?」
と担当者に詰め寄るが
「約束通りに社会保険料すら払えない会社はつぶれてください」
とあしらわれ、差し押さえは止まらず事実上の倒産にいたる。

3回も約束を破った上にそれでも支払えなくなったことが、担当者を怒らせた原因と思われる。
社長は
「担当者が言う数字で分納計画を作らないと、支払いを待ってくれない。
だから担当者に言われるがまま、支払いが無理な数字で計画書を作ったのであり、あの時はしょうがなかった。」
と弁明していました。
しかし無理な数字の計画を作って約束を破るくらいならば、担当者が納得してくれるまで何度でも年金事務所に足を運び、確実に払える計画書を作ることが重要です。
支払いを待ってもらうために、安易に担当者が喜ぶ支払いができない嘘の分納計画を提出した結果、事実上の倒産までいたった事例でした。

税務署と先を争って差し押さえを行う年金事務所

20年前頃は「社会保険料は支払わなくても大丈夫」という空気がありましたが、今はまったく違います。

滞納分を先にどちらが確保できるか、税務署と先を争って差し押さえを行っている雰囲気を、現場でひしひしと感じます。

何度も言いますが、昔とは状況がまったく違います。
年金事務所をなめたら絶対にいけません。

換価の猶予適用時の交渉の肝

換価の猶予は社会保険料、年金保険料が払えない会社、社長の唯一の武器です。

しかしこの武器をうまく使えるかは年金事務所との交渉、関係次第なのです。

「社会保険料を約束通り支払えていない会社が一方的に悪い」
この原理原則をおさえて担当者と交渉を行う事が、肝となります。

換価の猶予の現実と実務に関するよくある質問

Q
換価の猶予を受ければ、社会保険料の問題は完全に解決しますか?
A

いいえ、解決ではありません。
換価の猶予はあくまで延命処置であり、滞納金の支払いを先延ばしにしているに過ぎません。
猶予期間中に事業をどう立て直すかという本質的な再建計画がなければ、結局は破綻を先延ばしにしただけという現実が待っています。

Q
換価の猶予を申請する際に、社長個人のリスクはありますか?
A

大きなリスクがあります。
申請書を提出し受理されることは、事実上、社長個人が会社の社会保険料滞納分を連帯保証したことと同じ意味を持ちます。
万が一、猶予期間中に支払いが滞れば、会社の資産だけでなく社長個人の資産も即座に差し押さえの対象となります。

Q
年金事務所の担当者と決めた分納回数が、後日変わることはありますか?
A

あります。
担当者レベルで例えば12回払いで合意したとしても、その数日後に上司徴収課長などの決裁が下りず、
「上司が12回払いを認めないため3回で払うように」
と決めたはずの条件が覆されるケースが、実務の現場では発生しています。

Q
猶予の交渉を有利に進めるためのポイントは何ですか?
A

払えないから待ってくれという懇願ではなく、合理的な事業再建計画を提示することです。
年金事務所の担当者に対し、
「今この会社を差し押さえて潰すよりも、事業を継続させて計画的に回収する方が、あなた方にとっても得である」
という「あなた方にとっても得ですよ」という事実を、論理的に説明する必要があります。

Q
猶予期間中に一度でも支払いが遅れるとどうなりますか?
A

原則として、換価の猶予は取り消されます。
取り消された瞬間から本来の督促手順に基づき、銀行口座や取引先への売掛金に対する差し押さえ手続きが再開されるという極めて厳しい現実があります。

まとめ

  • 換価の猶予とは社、適用期間中は会保険料滞納を理由とした差し押さえや、資産の売却を年金事務所はしませんというもの
  • 担保の提供がなくても換価の猶予は適用できる
  • 換価の猶予を使うならば、担保はとらなくても個人保証はとられる
  • 分納計画書どおり支払いができない場合、換価の猶予を取り消される
  • 年金事務所は近年税務署と先を争って差し押さえを行う傾向があり、絶対になめてはいけない

以上になります。

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